低音域から高音域まで聞こえるポケット型簡易補聴器の自作

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加齢にともない聴力に変化が現れはじめ、個人差はあるが老人性難聴になってくる。そうなると人の話を聞くとき、聞き返えす、耳に手を当てる、聞こえたふりをしてしまう。また、テレビを見ながらテレビの前に異常に近づいたり、周りが驚くほどにボリュームをあげたりする。難聴が進むとこのような様子を良く見かけるようになる。

そこで、このような方に、音声を増幅して聞きやすくする「ポケット型簡易補聴器」を自作したためその内容を記し、どなたかの参考になれば幸いである。

日本医師会雑誌2000/03/15(第123巻・第6号)によると、平均聴力レベルが40db以上の中等度難聴者になると補聴器が必要になる。症状は、普通の会話ではしばしば不自由を感じるが、大きい声で正面から話してもらえれば会話を理解できる程度である。

老人性難聴のほとんどは両耳がほぼ同時に進行するので、音声が両耳に伝わるように作ることが必要になる。音域は、高音域から聞こえにくくなることが多いそうだが、人によってさまざまであるようなので、低音域から高音域までフラットに聞こえるものが望ましい。

1. 考案

大きさは、大きくても男性のワイシャツの胸ポケットなどに収まるものにする。

両耳で聞こえるようにするには、左右の耳に付けるイヤホンやヘッドホンで聞けるようにする。

音域をフラットにするには作り方にもよるが、回路が簡単で最もポピュラーなオーディオ用のIC「LM386」を使用し、ボリュームで音量調節する。

電源は、ポケットに入れて持ち運ぶので小さなものが好ましい。しかし、補聴器は長時間使用することを考慮すると、006P型のアルカリ乾電池がちょうど良さそうである。また、高齢になると電源の切り忘れも多くなるのでLEDを付け、ON/OFFを見える化にする。

2. 回路図

電源は006P型の9VPOWER SWを介して三端子レギュレタ 7805に渡す。7805から出力された安定化電源5Vを OPアンプ LM386に供給する。また、同電源の電圧をコンデンサマイクにかける。

音声信号コンデンサマイクで拾ってもらい10μFのカップリングコンデンサを介し、音量調節用10KΩの VRに渡す。調節された音声信号は LM386の3番ピンへ渡し増幅する。増幅された音声信号は LM386の5番ピンから出力され、250μFのカップリングコンデンサを介し出力信号となる。

※ 参考

LM386の入力信号は 2番ピンおよび 3番ピンのいずれでも良いが、2番ピンの場合はエミッタ増幅と同様に出力信号が反転する。なお、2番ピンへ入力した場合は、3番ピンをグランドに落とす必要がある。

右上は三端子レギュレータ「7805」、右下はオーディオ用IC「LM386」の極性図

LM386 ➡ [ LM386データシート.pdf ]

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3. パーツを基板に取り付ける

プリント基板を使用してもいいが、パーツが少ないので蛇の目基板に半田付けした。なお、基板の大きさは(45mm×45mm)に落ち着いた。

基板上にVRは必要ないが、2個見える半固定VRはR1とR2に電圧の調整用に使用したもので、実際に自作する場合は回路図の値で問題はない。

左が上面、右が側面

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4. ケースに納めて配線を施す

コンデンサマイクは1個でもいいが、特性や出力インピーダンスなどの違いで音声が小さくなる場合がある。その場合、実際にはマッチング回路が必要だが、ここでは難しいことは必要ないため、同じものをパラ接続で増やし音声を増幅できる。ここでは2個をパラ接続している。

下図はインターフォンに使用したもで、コンデンサマイク3個をパラ接続し実験の結果、3個以上では大きな変化はみられなかった。

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音声信号を運ぶ配線は、2芯シールド線を使用した方が安全だと思う。

増幅回路を有するため実際には金属筐体が必要だが、持ち運ぶために軽量にすることを念頭に、プラスチックケースにした。ケースは、ELPA(エルパ・朝日電器)のHK-BX02(BK)(W100mm×D65mm×H35mm)を使用した。

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5. 完成した外観

ワイシャツの胸ポケットに収まる大きさの「ポケット型簡易補聴器」が完成した。

左は上面で、左から3.5mmのミニジャック、ボリューム、電源スイッチとLEDが見える。

中央は下面で、コンデンサマイクが2個取り付けてある。

右側はヘッドフォンをミニジャックに差し込んである。

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6. 考察

私は難聴者ではないが、この簡易補聴器にヘッドフォンを付けて、10KΩ(A)のボリュームを上げてみると、1/4回転で小さな音でも十分増幅する。半分まで回すと人の声が大きすぎてきつくなり、3/4回転ではヘッドフォンを外したくなるほど大きくなる。

それでは、作動電圧5V、音声周波数300Hz、マイク入力電圧30mV、10KΩ(A)ボリュームを1/4回転(7.5KΩ)と、仮定した場合の波形をシミュレーションしてみる。
下のシミュレーション画像を見ると、黄色の波形は入力電圧30mV、出力電圧は緑色の波形で、約1.0V、33倍(30dB)になることが見て取れる。

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老人性難聴者に付けてもらったが、大変良く聞こえるとのことで、近くの者がいつも通りに大きな声で話をしようとした途端に「声が大きいよ!」と言われていた。随分良く聞こえているらしくて「もっと早く作ってあげればよかった」と思った。

少し気になったのは、電源スイッチをONにしたまま本体をテーブルの上にじかに置いたり、ケースをぶつけたりすると、ヘッドフォンを外したくなるほど接触音が大きいので、本体を移動させる場合は、必ず電源をOFFにすることを使用者に伝えた方がいいと思う。

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