IC-706のIF信号を取り出して流行のSDRを実現する方法
物置の整理をしていると、昔々モービルに取り付けて使用していた「ICOM IC-706」が転がっているのを見つけ、7MHz帯周波数拡張改造を行った。その後、改造で入手した回路図や基板図面および本体の基板を確認していると、IF信号(中間周波数)を簡単に取り出せそうである。そこで、このIF信号を今流行りのSDRに使用するために改造すると問題なく成功したため、その改造した内容を画像など交えながら記すことにする。
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ICOM IC-706の取り扱い説明書を確認すると、第1中間周波数は「69.0115MHz」に設定されている。
⑴ SDRに使用する※ドングル周波数のローレンジは、Rafael Micro R820Tで24MHz、Elonics E4000でも52MHzになっているため、HF帯でもIF信号をコンバートしなくても使用できそうである。
※ ここでは、PCのUSBポートに接続するDVB-T(Digital Video Broadcast-Terminal)を「ドングル」と呼び、デコーダチップに、Rafael Micro R820T,DやElonics E4000およびFitipower FC0012,13等のチューナーチップを使用したワンセグTVチューナーである。
⑵ 下図は、IC-706 ブロックダイヤグラム メインユニットの一部で、赤枠内が第1中間周波数を発生させているブロックである。ミキサーには、ダイオード DBM(ダブル・バランスド・ミキサー)「ND487C1T」(IC3)を使用している。この部分からIF信号「69.0115MHz」を取り出す。
⑶ 下図は、回路図のメインユニットで、IF信号「69.0115MHz」を取り出す位置を示したものである。ダイオード DBMは、ダイオードと2つの高周波トランスから構成されており、出力側のトランスの足元からIF信号を盗んでしまう。
SDRに使用するIF信号を取り出す位置は、ルーフィングフィルタ(BPF)の前で取り出す必要があり、フィルタリング後で取り出すと受信帯域幅が狭くなり、SDRのウォーターフォールに周囲の信号が現れなくなるために要確認である。
⑷ 下図は上記回路図に変わり、同メインユニット基板図でIF信号「69.0115MHz」を取り出す位置を示したものである。
改造は至って簡単で、IC-706本体の上カバーを外し、事前に用意した同軸ケーブルをミキサー部のコイルの足のランドにハンダ付けする。
⑴ ミキサー部はシールドカバーで覆われており、確認することはできないが、ハンダ付けする場所は、本体正面から見て左側中央あたりに縦に長いミキサー部のシールドカバーがある。そのシールドカバー左側に2本のランドが見える。それぞれに穴が見えるが手前のランドの穴である。下写真のように、本体左横から見た場合は右のランドの穴である。
⑵ 右側ランドの穴にフラックスを塗り、用意した同軸ケーブルの心線と編み線にハンダメッキを施し、先細のこて先で※ハンダ付けをする。また、グランドに落とす編み線は、上の画像「GND」を示すシールドカバー上にハンダ付けする。
※ このように信号を取り出す場合は、直流の流れ込防止等のためにコンデンサーを介してハンダ付けをする必要がある。また、取り付けが困難な場合は後段に取り付ける。以下の画像では心線をランドに直付けしているが、後段に10Pのセラミックコンデンサーを取り付けている。
⑶ 以下の画像は前記説明のように、同軸ケーブルの編み線をシールドケース上にハンダ付けを施したものである。
⑷ 以下の画像は、同軸ケーブルの引き出し方を示したもので、メインユニットと後部ユニットとの遮蔽に既存のケーブルを通す凹みがあるため、この部分を通し、ケースの外へ出すにはキーヤー端子の上部から引き出す。同軸ケーブルは1.5D2Vを使用したが丁度収まっている。
⑸ 以下の画像は、IC-706本体に上カバーを取り付け、ケース後部から見た画像である。キーヤー端子上部の隙間から1.5D2Vの同軸ケーブルを引き出しているのが見て取れる。
⑴ ここでは確認のための必要最小限の設定を行うもので、その他は設定済のものとする。
① 取り出したIF信号の同軸ケーブルをドングルのアンテナ端子に接続し、ドングルをPCのUSBソケットに差し込み、IC-706に必要なアンテナを接続する。
② IC-706のイニシャルセットモードを立ち上げてCI-Vを設定する。
③ HDSDRを立ち上げて、Options> OmniRig> OmniRig Settings をIC-706の設定に合わせ、COMポート番号はPCに合わせる。
※ Omni-Rig(オムニ リグ)を設定するには、HDSDRにCOMコンポーネントの組込みが必要になるため、このサイトの [Omni-Rig のインストール] を参照すること。
以下の画像は、実際に設定したものである。
⑵ HDSDRの Options> RF Front-End+Calibration> SDR hardware coupling の設定を行う。
① SDR on IF output,which is controlled のラジオボタンにチェックを入れ、セレクトメニューで「by Omni-Rig1」を選択する。
② IF-frequency(赤枠)にIC-706から取り出したIF周波数「69011500[Hz]」をドット無しで入力する。
③ 「Global Offset」は、ドングルの構造や環境によって周波数に誤差が生じるため、その誤差の周波数を入力する。なお、この設定は安価なドングルを使用するため、スイッチを入れて5分程度経ってから設定する。
④ 設定が終わったら「Apply」をクリックして決定する。
⑴ 各々の設定を済ませ、3.5MHz帯から144MHz帯までを受信してみたが、どのバンド帯もノイズが多く気になるため、ノイズフィルタを入れることにした。
以下の画像が実験的に作製して使用したトロイダルコアのフィルタである。作製したフィルタは、FTシリーズ・フェライトトロイダルコア(FT114-61)に、外径2ミリのシールド線をバイファイラ密着22ターン巻きにしたものである。このフィルタのIF信号を取り出した同軸ケーブルに繋ぎドングルに接続する。
また、このフィルタを接続した場合、バンド帯および時間帯にも依るが、ウォーターフォールの見た目や耳感に頼っての判断で、概ね70パーセントから90パーセント程度の効果が出る。
⑵ 以下の画像は、7.150MHzでHDSDRとTurbo HAMLOGを操作している画像であるが、感度が良いためスペクトラムが跳ね上がっている。
PC画面の右側に帯域幅が広がっているウォーターフォールが見えるが、これは中国のAM短波放送である。左側のLSBと比較すると帯域幅の広いのが明確に見て取れる。
ノイズフィルタを挿入すると、多くのノイズが抑制されて綺麗なウォーターフォールが流れる。しかし、フィルタを挿入しない場合はノイズが入り、綺麗なウォーターフォールとは言えないが、使用できないことはない「苦ちい!」。やはりノイズフィルタの挿入は必要不可欠である。しかし、どこまでノイズを抑えるかは各々の好みだろうが、完璧に抑え込もうとすると受信感度は落ちるので、ある程度の妥協は必要になるだろう。
なお、無線機の改造もしくは改修した場合は、技術基準適合証明が無効になるため、JARD保証認定を受け直す必要がある。誤って運用すると違法になるため注意が必要である。
※ 当ウェブサイトは、改造に伴い発生したいかなるトラブル、損失、損害等の諸問題について一切責任は負えないため、ご承知おき願いたい。
それでは、充実したハムライフをお過ごし頂くとともに、いつかお空でお会いしましょう!。